「お風呂の入り方、教えてる人がいるの?」
お爺さん司祭様はね、僕がダメだったら教えてくれる人を呼べばいいって言うんだよ。
でもさ、そんな事をしてくれる人がいるなんて思わなかったから、僕は聞いてみたんだよね。
そしたらお爺さん司祭様は、笑いながら違う違うって。
「いや、風呂の入り方を専門に指導しておる者がいる訳ではない。だがな、入り方を知っておる者ならば教える事もできるであろう?」
「あっ、そっか! さっき司祭様も、僕が一緒に入れるんだったら教えてあげてって言ってたもんね」
お風呂の入り方なんて、そんなに難しいもんじゃないでしょ?
だからそれを教える先生みたいな人がいなくっても、いっつもお風呂に入ってる人なら簡単に教えることができるんだよね。
「あっ! でもどうやって連れて来ればいいの? 僕、魔法で連れてくる事、できないよ?」
でもね、ジャンプの魔法は僕一人しか移動できないんだよね。
だからどうやって連れてきたらいいの? って聞いてみたんだ。
そしたらさ、魔法で連れてくるんじゃないんだよってお爺さん司祭様は言うんだ。
「連れてくるのではない。先ほども言ったであろう? 来てもらえるように頼めばいいのだ」
「頼むの?」
「うむ。君は魔法でヴァルトの別邸に行けるのであろう? そこのメイド長を務めているストールが君の家に派遣されるとヴァルトが言っておったからな。顔つなぎついでに風呂の入り方も指導して貰えぬかと頼んでみてはどうかな?」
そう言えばストールさん、僕んちが完成したら来るんだっけ。
そしたらニコラさんたちと一緒に住むことになるんだから、その前にあっとくのもいいかも。
「でもさ、もしストールさんが忙しかったらどうするの?」
「彼女の事だ。その時は誰か適任者を選んで、こちらに寄こしてくれる事であろう」
お爺さん司祭様はね、ストールさんだったら任しちゃっても大丈夫だよって言うんだよね。
「そっか。ストールさんだったら大丈夫だよね」
そう思った僕はうんうんって頷いたんだけど、そこでちょっと思ったんだよね。
「ねぇ、司祭様。ストールさんの事、知ってるの?」
「ん? おお、知っておるぞ。彼女はな、今は別館のメイド長に収まっておるが、元はヴァルトの家のメイドであったからな」
お爺さん司祭様がまだお爺さんじゃなかったことにね、ロルフさんちに何度かお泊りしたことがあるんだって。
そのころはストールさんもまだ普通のメイドさんだったから、司祭様が行くとお世話する係になる事が多かったんだよって教えてくれたんだ。
「彼女はあの頃から優秀でな、来客があるとつけられる事が多かったのだ。それ故によく知っておるから、風呂の話もわしからの頼みだと言えば引き受けてくれるであろう」
「そっか。じゃあ僕、ロルフさんちに行って頼んでくるね」
こうして僕は、ジャンプの魔法でロルフさんちに行く事になったんだ。
ニコラさんたちとは食堂の前でお別れして、僕とお爺さん司祭様はお部屋へ。
そこからジャンプの魔法で、いっつも行ってるロルフさんのお部屋に飛んだんだよ。
でね、いつものように置いてあるベルを鳴らしたんだけど……。
「あれ? 誰も来ないや」
いつもだったらすぐに誰か来るのに、何でか今日はなかなか人が来なかったんだよね。
だから僕、聞こえなかったのかなぁ? って思って、ベルをカランカランならし続けたんだ。
そしたら、
「申し訳ありません、ルディーン様」
そう言っていっつも僕のお部屋のお掃除をしてくれてるメイドさんが入ってきたんだよね。
「こんにちわ! ねぇ、いっつもすぐに来るのに、なんで今日は来なかったの?」
「ああ、それはですね。ルディーン様がイーノックカウの中に家を購入されたので、これからはそちらに行かれると聞いていたからなんです」
メイドさんはね、もうここには来ないって聞いてたから、さっきベルを鳴らした時も置き方が悪くってテーブルから落ちちゃったんだろうなぁって思ってたんだって。
でも、その後に僕が何度も振ってカランカラン鳴らしたでしょ?
だから大慌てで飛んできたんだってさ。
「それで、ルディーン様。今日はどのなされたのですか?」
「あっ、そうだ! あのね、ストールさんにお願いがあってきたんだ」
僕はね、ニコラさんたちにお風呂の入り方を教えて欲しいってストールさんに頼みに来たんだよってメイドさんに教えてあげたんだ。
そしたらメイドさんはちょっと困ったようなお顔になって、僕にこう言ったんだ。
「申し訳ありません。メイド長は現在外出中でして」
「どっか行ってるの?」
「はい。実は旦那様からの連絡を受けて、ルディーン様が購入されたという館へ行かれました」
僕んちが完成したら、ロルフさんちのメイドさんや執事さんがお勉強する場所になる事になってるでしょ?
その時はストールさんも僕んちに来ることになってるから、細かいお話をするために僕んちに行ったんだって。
「メイド長はそのまま数日間、改装をする必要が無い客間に泊まるとの事ですから、しばらくはお戻りにならないそうですわ」
「そっか。じゃあ、僕んちに行けば会えるんだね?」
「はい。大丈夫だと思います」
僕んちだったらジャンプの魔法ですぐに行けるでしょ?
だからメイドさんに教えてくれてありがとうって言ってから、僕はもういっぺん」ジャンプの魔法を使って、イーノックカウにある僕んちに飛んでったんだ。
「きゃっ!」
そしたらそこに誰かいて、びっくりさせちゃったみたい。
だから僕、慌ててごめんなさいしようとしたんだけど、
「あら、ルディーン様ではないですか」
そしたらさっき声のした方から全然びっくりしてないよって感じの声がしたんだよね。
だから僕、あれ? って思ってそっち見たんだけど、そしたらそこにはストールさんと、レーア姉ちゃんくらいの初めて見るメイドさんがいたんだ。
「あっ、ストールさん。こんにちわ」
「ええ、こんにちは。いえ、時間的にはもう、こんばんはでしょうか?」
さっき声を出してたのは、僕のお部屋のお掃除をする事になったメイドさんでね、ストールさんはそのメイドさんと一緒にこのお部屋を見て周ってたんだって。
そんなとこに僕が魔法で飛んできたから、メイドさんはびっくりしちゃったんだってさ。
「それで、どうなされたのです? 今日は若葉の風亭にお泊りになられると聞いていたのですが」
「うん。さっきまで宿屋さんにいたんだよ。でもね、ストールさんにお願いする事ができたから来たんだ」
僕はね、ニコラさんたちがお風呂に入った事がない事、そして入り方を覚えなきゃダメってお爺さん司祭様が言ってたって事をストールさんに話したんだ。
「だからね、司祭様がストールさんに教えてもらえないか頼んで来てって」
「なるほど。確かにこれからこの館で生活するのですから、その方たちには色々と覚えて貰わなければならない事がありそうですわね」
ストールさんはね、僕に向かってそう言うと、今度は横にいるメイドさんにこう言ったんだ。
「直ちに馬車の準備を。それと私はルディーン様と共に出かけますから、その旨を皆に伝達してください」
「畏まりました」
そう言って出てくメイドさん。
でもね、ストールさんはここにお仕事に来てるでしょ?
だから僕、別にストールさんじゃなくっても、罰の人が教えてくれてもいいんだよって言ったんだ。
そしたらストールさんはにっこり笑ってこう言ったんだ。
「ハンバー様がわたくしをとご指名なされたのでしょう? ならば他のものを派遣しては、旦那様にお叱りを受けてしまいますから」
ロルフさんとお爺さん司祭様、二人は昔っからのお友達でしょ?
その司祭様がストールさんに頼んで来てって言ったんだから、別の人じゃダメなんだよってストールさんは言うんだ。
「それにハンバー様が仰る通り、これからこの館で生活を共にするのですから、前もってご挨拶するのも良いかと思いますから」
「そっか。一緒に住むんだもんね」
ニコラさんたちがここに住む時に初めて会うより、先に会ってた方が仲良くなれるもんね。
そう思ってうんうん頷いてた僕は、ストールさんがちっちゃな声で言った言葉を聞くことができなかったんだ。
「この館には旦那様もいらっしゃいますもの。お風呂の作法だけでなく、他の事もしっかりと教えなくてはいけませんね」
お姉さんたち、逃げて〜!w
ストールさん、ニコラさんたちを指導する気満々です。
それはそうですよね。だってルディーン君の家にはロルフさんやバーリマンさんが出入りするし、それにルディーン君の商会を開くとなるといろいろな客を招くことになるのですから。
そんな所にマナーのまの字も知らない人を置いておくなんてメイドたちの教育を任されているストールさんに許せるわけがありません。
という訳でお姉さんズの試練、追加決定です。なむなむ。